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婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました
婚約者を寝取られた夜、財閥御曹司に溺愛されました
作者: 夕凪

第1話 あいつ、獣かよ

作者: 夕凪
last update 公開日: 2026-06-01 22:42:48

第1話 あいつ、獣かよ

「瑛士さま……あたし、あなたのこと、だぁいすき…」

甘ったるい声が、骨まで震わせる。

「どれくらい? こう……それとも、こうやって……」

かすれた低音に、女の頬はさらに紅潮した。

……

「ノクターンのゴールドVIPルーム。見たいものが見られるわよ」

橘美月(たちばな みづき)の指先は白くなっていた。スマホをどれほど強く握りしめているか、一目瞭然だった。

漆黒の瞳の奥で、暗い流れが渦を巻いている。金色の扉を、彼女は丸一分間見つめ続けていた。

目を閉じて、開く。すべての感情が消え去り、絶世の美貌が冷たさに包まれた。

彼女が足を振り上げて蹴り飛ばすと、重厚な扉は一瞬で蹴り開けられた。

薄暗く退廃的な部屋の中でも、彼女の視界は遮られない。目に入ったのは、いわゆる婚約者なる男が、体にぴったりと溶け込むようになまめかしい女を抱きしめ、夢中で口づけを交わす姿だった。

あまりにも目を覆いたくなる光景だった。

これだけ大きな物音にも、二人はまったく気づかない。いかに没頭していたかがうかがえた。

本来なら怒りに震えるはずの美月だったが、彼女の心は奇妙なほど静まり返っていた。

美月は無言で、この現実版アダルトビデオの生中継を眺め、口元にゆっくりと嘲笑の弧を描いた。

いくら熱演されても、タダで見続ける気にはなれなかった。文字通り、目が汚れる。

彼女はゆっくりと歩み寄り、手近なローテーブルから酒瓶をつかむと、そのまま頭めがけて振り下ろした。

ガシャン──

陶酔しきっていた二人の頭から酒が降り注ぎ、砕けたガラス片が四方に飛び散った。

「きゃあああああっ……!」

長く尾を引く悲鳴が、鼓膜を突き破らんばかりに響き渡った。

「どこのクソ野郎だ、死にてえのか……!」

殴られて目の前がチカチカする桐生瑛士(きりゅう えいじ)は怒り狂った──が、振り返りざま、半分陰った顔ですら目を奪われるほど美しいその顔を見た瞬間、

一瞬で取り乱し、慌てて腕の中の女を突き飛ばした。

立ち上がると、服とズボンがずり落ちた。慌てふためいて適当に身につける。

「……美月、話を聞いてくれ……」

美月の手を掴もうとした。

しかしズボンをきちんと締めていなかったため、立ち上がった途端にまた落ちてしまい、仕方なく手を引っ込める。

顔は青くなったり赤くなったり。

「美月、見たままじゃないんだ、説明させてくれ……」

美月は腕を組んで、一歩後退した。

二人の距離を開ける。

「ふん。瑛士、ホテルも取らずに、そんなに待てなかったわけ?」

目には嘲りの色がありありと浮かんでいた。

瑛士の顔は赤くなったり青ざめたり。彼は慌てふためいた。

「美月、家に帰ってちゃんと説明するから……」

美月は目の前の男が生臭くてたまらず、これ以上自分の鼻を虐めるのはやめにした。

そして無表情で言い放った。

「瑛士、あんたとは終わりよ。婚約は破棄する。そうそう、クズ男とゲス女、どうぞ永遠にロックオンしてくれて結構よ」

そう言い捨てると、彼女はそのまま外へ向かった。

瑛士は彼女が去ろうとするのを見るなり、思わず手を伸ばした。

だが、美月がその汚い手で触れられるのを許すはずがない。

美月はその場で振り返りざま、蹴りを放った。テコンドー黒帯の脚力は、常人に耐えられるものではない。

瑛士はまともに蹴り飛ばされ、起き上がれなくなった。

「きゃっ! 瑛士さま……大丈夫!? しっかりして……!」

真由が悲鳴をあげ、這うようにして駆け寄った。

美月は冷ややかに鼻で笑い、そのまま真っ直ぐ外へ歩き出した。

入口に着くなり、大勢の男たちに行く手を阻まれた。

美月はその若い道楽者たちを見渡した。瑛士の悪友連中に違いなかった。

田辺翔太(たなべ しょうた)が自分の鼻をさすった。

「あー……その、何も見てねえから……」

そして、底知れぬ黒い瞳に見つめられ、彼は黙って道を譲った。

他の連中も同じだった。全身から怒りの炎を放つ女など、とても敵に回せない。

美月は彼らを冷たく一瞥し、その間をすり抜けて外へ出た。

誰もが無意識に、しなやかに揺れる肢体を見つめ、こっそりと唾を飲み込んだ。こんな爆発的なスタイルに耐えられる男がいるのか。

清純と妖艶を兼ね備えた絶世の美貌を思い浮かべれば、まさに骨の髄まで溶かす美女だった。

瑛士のあの獣が、よりによって浮気するとは到底信じられなかった。

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